北海で

 私は北海に興味がある。北海とはヨーロッパにある北海である。フランスの北の沿岸、オランダの沿岸、ベルギーの沿岸、イングランドの東海岸、ノルウェーの西海岸、これらはみな北海を囲んでいる。北の海、北海。

 北海は、日本人にはあまりなじみがない。しかし、ヨーロッパ人、とくに沿岸国にとっては切っても切り離せないくらい縁が深い海である。ちょうど、日本人にとって太平洋や日本海、瀬戸内海などに相当するだろう。ヨーロッパ人から見れば、太平洋も日本海も瀬戸内海もあまりなじみのない海かも知れないが、日本人にとっては、その歴史上、文化上、切っても切り離せない海である。

 だから、北海を知ることが、ヨーロッパをそれだけよく知ることにつながると思うのである。あたかもギャップを埋めるように北海のことを知りたいと思うのである。

 今から20年くらい前に一度北海に行ったことがある。1999年のことだったか。3月にオランダに行った。北海沿岸の海辺のホテルに3日ほど予約をとった。

 北海へはハーグから意外と近い。ハーグの市街地を出るとすぐに北海である。

 北海は北の海である。地中海とはちがう。まだ3月だったからというのもあるかも知れないが、そこは白く、青く、風は冷たく、潮騒が厳粛に感じられた。

 オランダ配置が北なので(北緯50度くらいだったかな)、そのせいなのか空が異常に大きく感じる。まるで、劇場の一番前の座席に座って、首を急角度にして舞台の上を眺めているようである。空が舞台。浜辺が観客席のあるところ。そこをはあと臨む。まるでこれから何かが始まるのを待つように。でも、何も始まらない。いつまでも単調な潮騒が聞こえるばかりだ。浜辺を歩いていく。

 1時間ぐらいいると、やがて暗くなってくる。空一面が群青色になり、そこに白いモヤみたいなのがかかる。神秘的である。これから北の妖精たちの叙事詩の世界が始まるような。そんな静けさが漂う。聞こえるのは相変わらず潮騒ばかり。

 船幽霊の話なんかないのかな。私はオカルト本が好きなところがあるので、別の日に、近所の古本屋や新刊本を扱っているところをいろいろと訪ね歩いたが、その手の本は一冊も見つからなかった。やはり、宗教が違うからだろうか。そのような本を執筆する人はいないようだ。

 こうして、最初の私の北海との対面は終わった。いろいろと印象深かった。

 400年前はその海に帆船が浮かんでいたんだなと思った。大航海時代。そんな歴史を当時は調べていた。今はやっていないけど。でも、機会があればまたやりたいと思っている。そのためにはまず帆船のことをもっと学ばないと。でも、帆船について書いた本はあまりない。帆船の部位について書いた本はある程度はあるが、「帆船がどうやって動くか」について解説した本はほとんどまったく見たことがない。そこだよ、そこそこ。私が知りたいのは。帆船をどのように操船したのか。そのために、どのように帆を張ったのか、向きを変えたのか。やっぱり、オランダ語の本を探さないとダメかな。でも、難しそうだし。

 とにかく、北海へはまた行ってみたいね。その時、また本を探してみるかと思っている。いつかまた行きたい。いつか。

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